宇宙は3分で料理を始めた?ビッグバン直後の“元素づくり”の謎に迫る

第5章:ビッグバン・ヌクレオシンセシス(BBN)の完全解析

~宇宙誕生からたった数分で、未来の星の材料が作られたって本当?~

🔹そもそも「ヌクレオシンセシス」って何のこと?

「ヌクレオシンセシス(nucleosynthesis)」という言葉、見るからに舌を噛みそうですよね。これは簡単に言うと、原子核(nucleus)を合成(synthesis)すること。つまり、陽子や中性子がくっついて、ヘリウムやリチウムといった軽い原子核を作る反応のことを指します。

この現象が宇宙で初めて起きたのが、**ビッグバン・ヌクレオシンセシス(Big Bang Nucleosynthesis, BBN)**です。時期としては、ビッグバンから約1秒~3分くらいの間の出来事。たった数分で、宇宙の未来を左右する“元素のもと”が誕生したわけです。

🔹陽子と中性子の数のバランス、実はとっても重要

ビッグバンのすぐあと、宇宙はとんでもなく熱くて密度が高い状態でした。陽子(p)と中性子(n)はこの環境で自由に飛び交いながら、たえず変化し合っていました。

たとえば、

陽子 + 電子(e⁻) → 中性子 + ニュートリノ(νₑ)

中性子 → 陽子 + 電子 + 反ニュートリノ

こうした反応は、いわば陽子と中性子の“じゃんけん”みたいなもので、温度が高いうちは互角に変身し合っていたのですが、宇宙が冷えてくると流れが変わります。

中性子には1つ大きな弱点がありました。それは、

👉 すぐに壊れちゃう(寿命:平均880秒)

つまり、ほっとくと勝手に陽子に戻っちゃうのです。だからこそ、あるタイミングで「もう変身やめよう!」となった時点での中性子の数は、最終的にできるヘリウムの量を決定づける重要ポイントなんです。

✅ 陽子:中性子の比率はどう変化したか?

最初は陽子と中性子がほぼ同数(1:1)でしたが、宇宙の温度が1億K以下になると反応が止まり、中性子がどんどん崩壊を始めます。

最終的に…

陽子 : 中性子 ≒ 7 : 1

これが、なぜ宇宙に水素(陽子のまま)が多く、ヘリウム(中性子を含む)が少なめなのかの答えでもあるんです。

🔹元素生成のステップ:反応式で見る“宇宙の調理工程”

さて、ここからは具体的に何がどう反応して、どんな原子核ができたのかを順番に見ていきましょう。

🔸ステップ1:陽子 + 中性子 → 重水素(D)

まずは**陽子と中性子がくっついて重水素(D, deuterium)**になります。

これは、 p + n → D + γ(ガンマ線)

でも、宇宙がまだ高温だったときは、せっかくくっついてもガンマ線に撃ち返されてすぐバラバラになることが多かったんです。

つまり、「やっと重水素できた~」→「いやまだ早ぇ!」って壊される、そんな状態が続いていた。

やがて宇宙が十分に冷えて、壊されずに重水素が安定して存在できる温度(約10億K)まで下がったとき、やっと「次の合体」が進み始めます。

🔸ステップ2:D + p → He-3、He-3 + n → He-4

このあと、重水素が陽子や中性子と反応して、

D + p → He-3

He-3 + n → He-4

というように、**安定して存在する「ヘリウム4(He-4)」**がどんどん作られていきます。

最終的に、宇宙の質量の約25%はヘリウムに、残りの大半は水素のまま残ることになります。

またごくわずかに、**リチウム7(Li-7)やヘリウム3(He-3)**といった他の軽い原子核も作られました。

🔹「え?じゃあ炭素とか酸素は?」→ まだ早かった!

ここで気になる疑問が出てきます。

「じゃあ、炭素(C)とか酸素(O)とかはどうしてできなかったの?」

理由はシンプルで、

👉 この時代、宇宙には“3体同時反応”を起こすだけの時間と温度がなかったんです。

たとえば炭素を作るには、 He-4 + He-4 + He-4 → C-12

という「3つの粒が同時に集まる」という、なかなかレアで難しいイベントが必要です。でもBBNの時代、そんなにのんびりしている暇はなかったんですね。

宇宙はもう、急速に冷えまくってたので、3つも集まる前に「はい終了〜」って反応が止まってしまいました。

だから、炭素や酸素、鉄などの重い元素は後の「星の内部」でゆっくり作られていくことになります。BBNでは「軽い元素」までが限界だったわけです。

🔚 まとめ:宇宙の最初の「料理」は3分クッキング

項目 説明

反応開始時間 ビッグバンから1秒後
中性子の寿命 約880秒(陽子より不安定)
陽子:中性子比 最終的に約7:1
主な生成元素 水素(H)、ヘリウム(He)、リチウム(Li)
炭素以降の元素 この時点では未生成。星の炉心でゆっくり誕生

 

🌌 もう一歩先へ

たった3分で未来の星の材料を作り出した宇宙。
早すぎるクッキングなのに、分量もバランスも完璧。
なぜそんな奇跡が起きたのか?
それを追いかけるのが、私たち現代人の「知の冒険」なのかもしれません。

次章では、「なぜ宇宙に“光”が満ち始めたのか?」というドラマ――
宇宙背景放射の誕生について、じっくり見ていきましょう。

お楽しみに。

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